『奇貨居くべし 第五巻』(中央公論新社)
私は執政の席から退いた。しばらく秦の政治は醜悪になるかも知れぬ。その分だけ、中華の統一が遅れる。が、やむをえぬ。わたしは天命に順う。天命とは民意でもある。天が命じ、民が望むように生きるしかない。耐え忍べ、といわれたら、黙ってそうする。ただし、わたしの沈黙は退歩ではない。道をゆくということは、止まる所があるということでもあり、それをもたぬ歩行には、道がない。道をゆかない六頭立ての馬車は、道をゆく鼈(スッポン)に及ばない。私の旅はあてどない放浪になりかけていたのに、孫先生の偉さは、英才ばかりを教育せず、わたしのような蒙味で魯鈍な者にも、努力をしつづけることによって、英才にまさること教えてくださったことだ。たとえば、道は近くにあっても、行かなければ至らないし、小さな事でも、おこなわなければ成らない、というような教えには、先生の勇気が込められている。人に優劣があるとすれば、先生は、為すかあるいは為さざるのみ、とおっしゃった。人の差とは、やるかやらないかの差にすぎぬ。(本文より抜粋)
仁、智、徳、礼、法、道、忠、孝、義などを交えた歴史を参考に、これからも、この国のあり方を考えながら邁進していきたいと思っています。 |